うしろすがたの初恋に

うしろすがたの初恋に

初恋の人の、うしろ姿を思い出した。
ものすごく、鮮明に。
がにまた気味に、ほいっほいっと、教壇に向かって歩いていく。
テストの答案でも受け取りに行くのだろうか。この教室は、この彼の髪型は、小学校五年生くらいだ。
あまりにはっきりと、いきいきと、記憶の奥の、そのまた奥のほうから浮かび上がってきたので、驚いた。
何でもないうしろ姿。運動会のリレーの時のかっこいい彼でもないし、話しかけてくれた時の彼でもない。
記憶の奥底に沈められていたけれど、こんなに鮮烈に思い出すなんて、その時の私はどんなに一生懸命、彼の姿を追っていたのだろう。
彼の前に自分が存在する、ということさえ恥ずかしいような、自信のない恋だった。
まるで自分が目とか耳とか、感覚だけの存在になったみたいに、彼の存在だけを必死で感じようとしていた。
彼と自分を並べて考えることさえ出来なかった。ただその分だけ自由に、目に見えない風みたいに、彼の存在を感じて、彼のことを想っていた。
またあんな恋がしたいとおもう。何十年も、彼のうしろ姿を、どこか私の中に眠らせて、突然またそれが今現在の目の前にある現実みたいに、なまなましく蘇えらせるほどの強い想いを、また抱いてみたいと思う。
ただ今度は、相手にも私の存在が見えてほしい。
相手の前に立ちたい。
私がなにか言い、それに相手が答える声を、言葉を、聞きたい、受け取りたい。
うしろ姿ではなく、目を見て感じたい。こんどこそは。